「自分の価値を見つけたい」
17歳の星野つばさは、駅の階段を駆け上がりながら心の中でそう叫んだ。
その目の奥には、不安よりも決意が強く宿っていた。
自分の人生を変えるチャンスは、ここにしかない。
Stella☆Luxeオーディション——それは、彼女にとって「最後の賭け」だった。
Stella☆Luxe 誕生物語(第六章 星野つばさ:笑顔の奥の葛藤)
つばさは小学校、中学校の頃、いつも両親からこう言われてきた。
「お前は姉に勝てるものがない」
勉強の成績は平凡、スポーツも人並みで抜きん出たものはない。
成績も、運動も、習い事も。何をしても姉と比べられ、「お姉ちゃんはできたのに」と言われ続けて育った。
努力しても、それが自分の力として認められたことはなかった。
愛情を感じることよりも、否定される方が多かった。
しかし、つばさは、
「お姉ちゃんは、天才だもん!そんなお姉ちゃんには勝てっこないよ。私は将来お笑い芸人でも目指そうかな」
そう言っていれば、両親にもプライドの高い姉にも門が立たなかった。
だから、いつも元気にニコニコ振る舞った。
しかし彼女は、そんな自分に自信が持てず、コンプレックスを抱えて過ごしていた。
「自分の価値を見つけたい」
その一心でオーディションに応募した。
つばさはオーディションに合格するために、一人努力を続けた。
「姉に負けたくない」
そんな強い気持ちがつばさを突き動かしていた。
つばさの歌とダンスは平凡であったが、元気なパフォーマンスは人目を引き、オーディションに合格した。
しかし、合格の喜びも束の間、彼女はすぐに現実に直面する。
他の選ばれた四人には、抜きん出たものを感じる。
ひかりは、キラキラと舞うようなダンスに、圧倒的な歌声とオーラ。
るいは、感情まで表現できる圧倒的なダンスパフォーマンス。
ももは、見る人すべてを惹きつけるビジュアルと、アイドル性。
さくらは、感情を繊細に伝える抜群の歌声と、強い表現力。
自分には何があるのか?
ただ元気なだけじゃ、通用しない。
姉と比較され続けた幼少期。
つばさは、周りとの比較にばかり囚われていた。
レッスン中、どんどん自信を失っていく自分。
それでも、サービス精神旺盛のつばさは、おバカキャラを演じていた。
笑顔をつくっても、それが本当に自分のものなのか分からなくなっていた。
そのとき、そっと声をかけてくれたのが、ももだった。
「つばさ、ツラい時は、頼ってね。
もも、こう見えて、お姉ちゃんなんだから」
3人姉妹の長女であるもも。
ずっと妹二人を気にかけて生きてきた。
ももは、つばさの微妙な内面の変化にも気づいていたのである。
つばさは、その言葉に、ずっと張りつめていた心がふっとほどけた。
「私、小さい頃からずっとお姉ちゃんと比べて、お前はダメだ、ダメだって言われてきたの。自信を持ちたくてここに来たんだけど周りと比較してやっぱり自分には何もないんだーってそう思うの」
照れくさそうに話すつばさ。
そんなつばさに、ももは、こう話した。
「つばさの笑顔って、他の誰とも違うよ。
周りがパァっと明るくなって、ついつい周りも笑顔になっちゃうの。
それって誰にでもできることじゃない。すごい才能なんだよ?」
「それが才能?」
「そうだよ。人を笑わせるのっていちばん大変なんだから」
両親にも姉にもそんなこと言われたことなんてなかった。
「こんな私でも、グループの役に立ててるのかな・・・?」
「あったり前田のクラッカーだよ!」
ももは、いつもくだらないダジャレをいうつばさのように、
ダジャレで返した。
「じゃぁ、私、ずっと元気でいるね!」
つばさは、初めて自分の存在に誇りを持てた。
「ここにいる意味、ちゃんとあった。誰かの背中を押せる、私の元気と笑顔で。」
星野つばさ——
持ち前の明るさとエネルギーの裏に、悔しさも弱さも抱えながら進む少女。だけどその笑顔は、決して飾りじゃない。
覚悟と優しさを知った人だけが持てる、本物の光なのだ。
今、ステージに立つ彼女の笑顔は、誰かの心をそっと照らしている。